2020年1月4日。
前回書いたように、古澤さんはバロック弓を求めて、ヴァイオリニスト兼 歴史的楽弓製作家、ポール・エレラを訪ねることになる。
私はその時取手市に住んでいたので、取手駅で彼を車でピックアップしてかすみがうら市のポールのところまでお連れした。
もちろん事前にポールにはこんな方が弓を探している、と伝えて在庫チェック済み。
ポールの奥さんがヴァイオリニストの戸田薫氏。
私は時々落ち込むと彼らに会いに行く。これまでに何度救われてきたことか!
この日は会いに行くのが久しぶりで、再開が嬉しかった。
実は私が愛用しているチェロのバロック弓はポールエレラ製作のものだ。
彼が作る普通の弓よりは軽めのものを使っている。ちなみにモダンの弓(トルテかペカットタイプ)は82グラムくらいが相場だ。
古澤さんは飯能のヴァイオリンメーカーにヴィオロンチェロダスパッラを注文している、ということを言っていた。
今、チェロの弓でヴァイオリンを弾いている。できれば重めの弓、スパッラの弓でヴァイオリンを弾きたい、と言っていたが
私は、それはもしかしたら楽器の性能を発揮できないかもしれない、弓の重さには必ず理由がある。
と申し上げて、のちにしばらくするとヴァイオリン用の弓を使うようになるのだった。


という訳でこの日はスパッラ、ヴァイオリン、チェロのバロック弓を持ち帰った訳だが、
それからというと、古澤さんが筑波に用事がある時に私の家にしばしば立ち寄ることになったのである。
チェロとガンバの違いを説明したり、作品の紹介や試し弾きの時間が、2020年のヴィヴァルディとピアソラのツアー、2021年からの『バロックの昼と夜』などの実現につながった。
この頃、いつの日か覚えていないのだが、彼に言われたのは
「弟子入りしてちゃんと勉強したい」
冗談かと思ったがどうやら本気の様子。
その時に
「ヴァイオリンの奏法は私ではなくポール達に指導を受けたらどうか」
と提案した記憶がある。しかし彼が言うのは
「ヴィオラ・ダ・ガンバの繊細な弓使いを見たい 」
という訳だった。
そして数回、我が家で17〜18世紀の作品を一緒に見ていくうちに私のヴィオラダガンバやチェロの弓使いをご覧になり、
「こんなに繊細に弓使いを考えたことがこれまでになかった」
と仰った。
そうなんだろうか…?いや、そんなことはないだろう。
彼の音色は常に澄んでいて、パワフルだ。
ラジオで流れているジェットストリームの音色や、彼が若い頃のCDで例えばタイスの瞑想曲を聴いた時に、やはり古澤巌は只者ではないと感じた。
私がこう書くのも大変恐縮だが、上記のことからバロック音楽をするセンスはあるだろうと感じた。
ちなみに、大雑把に言えば16世紀〜18世紀の運弓法と19世紀以降の運弓法がだいぶ違う。それまでだ。現在の弓の形状が好まれ、一般化したのも密接な関係だ。その点は例えばルイ・シュポアのヴァイオリン教本を少し目を通すと面白い。
こうして2021年のバロックの会のツアーの準備に取り掛かることになった。
ちなみに彼は最初、ヴァイオリンとヴィオラ・ダ・ガンバの二重奏のコンサートをしたいと言っていたが、
その編成の作品は皆無。できるとしたら、T.ヒュームのラメントくらいしか見つからず。
そして彼には、まず大前提として、バロック音楽を演奏するには基本的に「通奏低音」が存在しなければならないことを長い時間と期間をかけて説明・説得した。
ここでせめてリュート(テオルボ)でもいいので人員を追加してほしいと頼んだら、OKを頂いた。ここで瀧井レオナルド君のご協力を得ることになる。
しかし、なんと言っても私が一番大変だと感じたのは、曲探しだった。
バロック音楽初心者だと言う有名ヴァイオリニストが映え、テオルボだけでもコンティヌオに対応できる作品、、、
これまた制約が多くて大変だった。曲は知っていても都度音出しして演奏可能か確認しなければならなかったのだ。
しかしその後間も無く、古澤さんから相談を受けた。
ベルリンフィルとのツアーを毎年秋にやっているが、例の流行り風邪の影響で彼らが入国できないようだ。バロック楽器を使って何か出来ないか、ということだった。
ヴィヴァルディの四季とピアソラの四季をカップリングしたいと言う内容だった。
続く
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